【プロレス本レビュー】巨星を継ぐもの(秋山準)

書評・BOOKレビュー

現全日本プロレス選手であり社長である秋山準選手の著書が出ました。
同書は新人時代から現在の全日本プロレスまでのエピソードがインタビュー形式で書かれてあります。インタビュー形式だからかその内容は非常にわかりやすく、秋山選手の正直な考えや思いが非常によく伝わってくる印象を持ちました。
「その質問はちょっと答えにくいかな…」と私は感じたことでもきちんと答えている内容に秋山選手の人柄も感じますし、そこにリーダーシップ性を感じます。
昨今、政治も含めて自分の立場や権威、イメージを守るため、胡散臭い言葉で質問内容をぼやかす人も多々いますが、そういうことを全く感じませんでした。自分の意見をしっかり表現し、訴えることができる人には多くの人が付いてくると思います。だからこそ、周りの人達から信頼をえるためには言葉と行動が裏腹にならないように日々の日常をしっかりしていかないといけないとつくづく感じます。

個人的な意見ですが、私が同書を読んで最もうれしかったのは、やはりジャイアント馬場さんを感じ取ることができることです。
私はもちろん馬場さんと話したことなどありません。ただ様々なエピソードを雑誌やテレビで拝見していると、その理路整然とした主張と行動、説得力に私は憧れました。もしかすると、その正々堂々とした姿に大きな心を感じ取っていたのかもしれません。
馬場さんの教えが色々と書かれています。またその内容が深く書かれていない部分もありますが、秋山選手には今になって納得できることが多々あるそうです。

私がその理論で非常に心に残ることはエースの風格や品格を大事にしていることです。私はそこにスポーツマンシップを感じるのです。
馬場さんは相手選手の顔面をストンピングすることやビンタすることを好まなかったそうです。安易な痛めつけ技をしないことで、その選手の大らかさというか威風堂々とした姿を感じます。そこに見ている者がエースとしての安心感を持つような気もします。相手がそういう技を行っても、自分は相手の鍛え抜かれた部分を攻撃する…そのうえで勝つことでよりその選手の懐の深さ、真の強さを感じ取ることもできるような気がします。

また馬場さんの教えからでしょうが、全日本プロレスは受けのプロレスだとよく言われます。同書で書かれている表現で例えると相手の実力をより引き出す戦いができるのが全日本プロレスの戦い方だと私は今まで以上に理解しました。相手を殺すのではなく、生かしてそれ以上の実力で勝つ。まさしく完勝ということでしょうが、「相手を生かす」という考え方が私にはスポーツマンシップ性を感じるのです。
よく私が指導経験した野球では相手を、チームメイトをヤジります。自分たちの実力がないチーム、指導者の指導力が無いチームほど、相手のミスを誘おうとします。しかし、そんなスポーツをしても肝心の自分たちの選手は成長しません。自分たちを上げることより、相手を下げることしかできない人間、またそういう輩が多い社会は成長どころか、周りの成長に対応できず衰退する一方でしょう。
だからこそ、相手の力を引き出し認めたうえで、自分たちにはそれ以上を求める姿勢が、人の成長を生むのだと思います。

私は全日本プロレスが大好きでしたが、その中から何か人として大事なこと、スポーツマンシップなどを学んだような気がします。それは馬場さんの取り組む姿勢やそれを基にしたレスラーのリング上の戦いから感じたことかもしれません。今、私はスポーツと関わることでスポーツの文化や社会学やスポーツマンシップなどを学びました。だからこそ、全日本プロレスの魅力とその内容を照らし合わせることで、よりそのスポーツ性を感じ取ることができたと思っています。それだけ学んだことと、見てきたことが合致したのです。

また馬場さんから学んだことから秋山選手が考えていることを今の全日本プロレスの若手達は学んでいるそうです。もし今後の全日本プロレスのリング上から、あの90年代の最も熱狂されたと言われる全日本プロレスの戦い方を感じ取ることができれば多くの人達から支持されていくと思います。
リングの戦いから、単純な試合の興奮だけでなく、多くの学びを感じ取ることができるからであり、それが同年代の大人の活力となり、子供達の憧れの見本になるからです。だからこそ、馬場さんが言うようにエースは綺麗な戦い方をしないといけないのかもしれません。

また秋山選手はトップとしてその教えを今の選手に教えても強要していないようで、要は自分で気づき理解できた者が真のエースになりうる存在になるのだと説いているように思います。これは私も同感で、野球指導をする際も私は選手に自分が学んできたことを助言しても強要しません。ただ自分自身の説得力を上げるために話し方や理論はしっかり学び続けています。選手は納得したら自ら行動します。その選手自身の主体性を導くこと、そして自分自身がその説得力を磨くのことが教える側の役割なのだと考えます。

ファンはリングの戦いで、その人の人間性をそれぞれの感性で感じ取ると思います。
それで多くのファンを獲得したのが小橋建太選手だと思います。小橋選手の戦いでは相手を最大限に生かすこと、それ以上に自分が目立つこと、そして最後に相手を称えること。そういう姿に人は本当の憧れを持つと思います。
「絶対王者」という強さより、人としての本質がファンを魅了したのだと…、そういう選手を是非全日本プロレスで育てて頂きたいと思います。

どうしても私が感想を書くとこういう話になってしまうのですが(笑)、同書ではノア時代のことまた全日本プロレスに移ってから社長交代劇、スポンサーの変化など様々な激震的な出来事も秋山選手の口から語られています。その内容は決して相手を無用な批判で聞くものを不快にする内容ではなく、秋山選手の冷静な目で良いことも悪いことも語られています。それが秋山選手の心の広さを少し感じ、そこも何となく馬場さんに似ているのかな…と(笑)。

またそれ以外にも大学時代の主将として行った行動にも当時からのリーダーシップ性を感じます。その合理的な考えと行動力も見事です。

私は同書を読んで、非常にうれしくなりました。全日本プロレスにおいてすべてが馬場さんのままを行う必要はありません。ただ、時代が変わっても普遍な考え方は存在します。それがスポーツマンシップや社会性、倫理観だと思います。それをリング上で表現していけば、ファンはその戦いから満足感を得、また会場に来ようとなるはずです。
全日本プロレスの再興はまだまだこれからです。ただ秋山社長なら多くの人達から信頼を得、いずれはあの時のような多くの人達から支持される時代が来てくれると信じています。
これからも今のファンが自信をもって新たなファンに勧められるような全日本プロレスでいて欲しいと思います。

今のプロレスファンも昔ファンだった人達も非常に興味深く読んでいける本であると私は思いますし、私は秋山選手の真の強さを感じ取ることができ、同書を出版してもらえたことを大変うれしく思います。すべて読みましたが、たまに読み返したくなる一冊です。

巨星を継ぐもの

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